外が少しずつ幸福な暖かさを保ち始めました。
この頃の風に浴びるといつも思い出す風景があります。
嘘のような若草色の引き詰められた絨毯。まるで全てこの先まずいことなど起こる訳がないとでも言わんばかりに煌々と降り注ぐ窓辺の陽光。窓から覗けば眼前に広がるネギ畑やら、キウイ、ブドウの果樹園。そこは、三鷹市にある学生寮の五帖一間。ボクはそこから東京の全てが始まった。そこは間違いなくボクの完璧な宇宙だった。
まだ友達も乏しいボクは、近所のおじさんがやってるサンドウィッチ屋のお気に入りを、各部屋添え付けの机でネギ畑を観ながら力強く食べた。初めて経験する光化学スモッグ警報のサイレンを聴くとも無く静かに聞きながら。
中古屋でみつけて、初めて買ったオウディオ機器で好きなだけ自分のためだけの音楽を聴いた。そこでは部屋には不適切なほど大きな姿見(どこかの学校の階段の踊り場のところにあるようなやつだ)も買った。全ての、食事だとか、入浴だとか、買い物だとかが正しいもののような気がした。アスファルトからえぐるように生える菜の花やらタンポポなんかも。
これらがボクの春に対するもので、強力に思い起こさせられるモノゴトです。
しかもそれは、きっとぎゅうぎゅうに色とりどりが詰まった菓子箱を覗くみたいに同時に来るようなタイプです。
ボクは、この風に浸るだけで希望を沸々と感じることができます。
きっと春というものはこういう季節なのでしょう。
また今年も春が来ようとしています。
その風が皆さんのところにも届きますように。
koko Mänty前のかむろ坂でもぽつぽつと桜が咲き始めました。
koko Mänty (kissa) 成重松樹