tokyo art book fair 2016について、半島、蝶、アラスカ

みなさま、ご無沙汰しております。季節はすっかり秋を迎えていますね。そうです。tokyo art book fair(TABF)の季節です。http://tokyoartbookfair.com

僕の生まれは大分県の国東半島というところで、前は海、後ろは山、あとは上に空があるだけというようなひどく田舎臭いところです。幼稚園、小学校、中学校と全て同じ敷地内にあって(完全エスカレーター式、もちろん町立)、住んでいた集落からは幼稚園生でも一つ小さな山を越えて通学していました(中学からは尾根をぐるっと回り込んで自転車通学。もちろんヘル中)。幼稚園は年少、年長の2年、小学校は6年、その8年の間、僕は山の多種多様な生き物たちに出会いながら(時に生き物係もしながら)毎日山を登り下りしました。雨が降れば、ミミズやカエルが溢れ、夏になれば山蟹が溢れ、猪が溢れ、木通や野いちご、山葡萄が溢れ、溢れてばかりの通学路でした。これから話すのは、本当にはなかった話です、たぶん。おそらく。もしかしたら、あったかもしれない。そのような話です。

それはまだ、幼稚園か、小学生の低学年の頃か、月日の流れには逆らえず、記憶はおぼろげ、とにかく、まだどんな種類の時間にも縛られることのない、とても小さな頃のことで、僕がまだヒーローに夢中だった頃のこと。

柔らかい陽、確かに落ちる木々の影、その合間を縫っていつものように家に帰っていた。風は柔らかく気持ちが良かった。きっと春のころだ。いろんな匂いが鼻をくすぐる。まだ幼い僕には名前も知らない無個性に近い木々や、植物たちの景色の中で、匂いだけは圧倒的だった。そこに現れたのはとても美しい蝶々だった。あまりに美しいものに出会った僕は自分のものにしたかった。母に見せたかったのだ。喜ばせたかった、褒めてもらいたかった。
僕は、大事に、とても大事にその小さな両の手で、壊れないように、壊れないように、ずっと胸の前に掲げて、急いで帰った。いつもは怖い杉の木トンネルも、息を止めて急いで帰った。共働きで、母も夕方までは戻らない。それでも僕は何かいけないことをしているようで急いで帰ったのかもしれないし、自分の場所でじっくり見たかっただけなのかもしれない。
家に辿り着き、開いた両の手にあったのは、粉々の羽と、黄金色や、茶色や黒のきらきらした粉と、野生の放つ強烈な匂いだけだった。正確には何も失われてはいない。ただ、損なわれていた。まだそこにあるものは何ら変わりはしないのに、蝶々はいなくなってしまった。命は損なわれてしまった。 
大切な想いが、何かを傷つけることもある。優しさが何かを損ねてしまうこともある。戦とはそのような、優しさが招いてしまうような悲しんでも悲しみきれないもののような気がしてくる。ただ、母の笑っている顔を見たかった。その一途さが人の凶暴さを暴いてしまった。それは人の持つ根源的な悲しみのような気がする。あのとき確かに“カチリ”と針が進んでしまった。もう引き戻せない根源的な人間らしさの時計の針は確実に進んでしまったのだ。
その開いた小さな両の手を見て、僕の目は悲しみ、口元は微かに上がったような気がした。

僕は凶暴だ。それは知っている気がしていた。それでも、たぶん足りていない。全然足りていない。僕の想いが誰かを傷つけてしまうこともあるかもしれない。それが怖いのだ。僕の考える“平和”が誰かを追い詰めるかもしれない。それで心底震えてしまう。

だから、僕は想像する。あなたや、あなたや僕の大切な人たちの物語を。その物語こそが“思いやる”ということなのかもしれないと思い始めている。

ということで、今回のTABFでの新作の紹介です。

「alaskalaska(アラスカラースカ)」B5変形p148の特大ZINEです。(背表紙の厚さがたまらない)
初回限定でアラスカダイアリーA3ポスター付きです。
お値段は¥2,000→TABF特価¥1,500!
是非遊びにいらしてください。
恒例の信濃町駅(外苑)京都造形大学外苑キャンパスにて9/16(金)〜9/19(月)まで。
取扱いは、きくちゆみこのブース(Dルーム27番)にて、きくちゆみこの最新作
ライアーズ6号「幸福がわたしを幸せにする、不幸じゃなくて」というあたりまえみたいなきくち的格言ではじまる「しあわせ」大特集号と、Twitterプロジェクトの安藤晶子と三河史尭、きくちゆみこの3人による、昨年のCinemafilmsの後編をまとめた冊子と共に並んでおります。
あるいは、スノウショヴェリングさん(Eルーム05番)のブースでもお取扱いいただいております、愛をむき出しにして。
よろしくお願いいたします。

koko Mänty (kissa) ~森へ~ 成重松樹 Matsuki Narishige

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